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IT’s a 駄々
もっと遠くまで行きたかったなあ。
せっかく久しぶりに、皇宮から出られたんだもの。
もっと遠くまで、一緒に歩いてみたかった。
せっかく二人っきりで、親睦を深めようと思ったんだし。
近場のお店に案内されて、そんな風に思う。
席に着くと、お店のお姉さんが注文を取りに来る。
私はお姉さんにお酒とおつまみを適当に、と頼み、
向かい合って席に着いた目の前のこの人を見つめた。
うーん、何で目を合わせてくれないのかしら。
どうにかして、その視線を捕まえようと、
この人が泳がせるその視線を先へ先へと、
自分も 目をやってみるけど。
すっごく頑固なのか、意地悪なのか、気付いてないのか
この人の視線は、捕まえそうになると、
その前にふいっと別のとこに動いてしまう。
「ねえねえ、チャン先生から聞いたの。
すごくお酒が強いって。本当?」
まずは、軽くそう話を振ってみる。
この人はやっとこっちを見て、
「はい」
それだけ言って静かに頷く。
そこに丁度運ばれてきたお酒を、二つの杯に注ぐこの人の
その手つきをみる。それは楽しみじゃないの。
「じゃあ、今日はとことん飲もう!」
「いえ、それは」
「そうやって水を差さないの!はい、じゃあ」
私は杯を一つ手に取り、もう一つをこの人が取るのを じっと待つ。
私を見て、この手の杯を見て、この人は はあ、と溜息をつき、
ようやくもう一つの杯を手にした。
私は卓越しに中腰になり、その手の中の杯に
自分のを ごちん、と音を立てて合わせた。
「かんぱーーーい!!」
滅多矢鱈に、嬉しそうだ。
最初の一杯を、驚くほどの速さで咽喉へと流し込み、
その上空けた杯を、頭の上でひっくり返して
空であることを見せつけた後
「…っは~、美味しい!」
そう仰るこの方に仰天し、思わずその小さな顔を
視線を誤魔化すことも忘れ、ただただ見つめる。
「う」
医仙と呼びかけそうになり、危うく思い留まる。
何処に誰の耳があるか知れぬ場所でこの方の身元が割れ、
危険に晒すその名を呼ぶわけには行かぬ。
「イムジャは」
あなたは、それほど酒にお強かったのか。
「なによー飲みなさいよ! 私の方が年上よ、
先輩の言葉が聞けないわけ?
私の世界では、先輩のお酒を断るなんて許されないわよ?」
「…分かりました」
手の中の杯を唇に当て、正面のこの方から僅かに顔を背け
俺は一気に中身を干した。 さすがに、頭の上で返しはせぬが。
その瞬間、その空の杯が溢れんほどに満たされて、
目の前の方を振り返る。
「イムジャ」
「何よ、言ったでしょ?断れないんだってば。
おまけに強いんでしょ、今日は飲みましょ!
とことん付き合ってもらうわよ!」
にこにこと笑いながら、ご自身の腕よりずっと太い酒瓶を
重そうに持ちあげながら、この方はそう、小さく叫んだ。
それほど機嫌良く飲み始め、どれ程お強いのかと
俺はそう思いつつ、杯を重ねるこの方を見ていた。
確かによく飲み、よく召し上がる。
運ばれてきた肴を、箸を運ぶ手を休めずに口に入れ
その合間に杯を重ね、おまけに話すその口も止まらぬ。
「最初は長い悪夢を見てるんだと思った。
本当に大っ嫌いだったのよ。この場所。
無理に連れてきたあなたの事もすっごく恨んだ。
知ってるでしょ、覚えてるよね」
「…はい」
「れもね」
そこで、はと気付く。医仙の滑舌がおかしい。
しかしこの方は何ともない様子でこちらを見つめ、
笑んだまま、言葉を続ける。
「今は、ここもきれいだなーって思う。
空気がおいしいなーって思う。
今までのいろんな事ごめんね、って思う。
でも、あなたは私の事嫌いかもなーとも思う」
「…いえ」
何故かしゅんと俯いたこの方に首を振る。
嫌いなわけではない、決して。
ただ危なげで、見ていられぬだけで。
目が離せぬその己に、戸惑うだけで。
「きちょ」
「イムジャ」
その名を口にしようとしたこの方を制す。
しかし酔い始めたこの方が、どこまで覚えていられるか。
「…イムジャのところでは、どのように酒を飲むのですか。
どんな酒がお好きですか」
仕方ない、この方が奇轍の話をせずにいられるのは
恐らく天界の話をする時だけだ。
「そうねー、名物は何と言ってもポクタンジュ!」
途端に機嫌が良くなり、酒の話をし始めるこの方の
その笑顔に安堵し、俺はこの方の声に耳を傾ける。
そこからまた、何杯呑んだか。
「ちょぉっと、ヨンア!」
「…はい」
後ろの、二卓ほど離れた処に座る迂達赤たちが、
仰天したように、俺たちの様子を凝視している。
尤もだ。泥酔したこの方に名を呼び捨てにされ、
何も言い返さずに、黙って頷いておるのだから。
「あんた、飲んでるの?」
「…はい」
「嘘ばっかり、さっきから全然じゃないのー!
話してるのも私ばっかりのような気がするんだけど!」
「い」
「そんな事ある!あるってば」
「イムジャ、そろそろ」
「やだ!まだ飲む!」
駄々っ子のようそう叫んで、この方は 卓の上の酒瓶を
その両腕で勢い良く抱え込み、 その拍子に酒瓶の口で、
がつんと額を打った。
「イムジャ!」
その音に驚いて中腰になり、思わずその額に手を当て
打った処を見れば、 俺のその手に何故かこの方は
ご自分の酒の回った 熱い手を当てながら、へなりと笑った。
「今、心配したでしょ!したでしょ?」
それは当然だ、凄い音がした。
握られたこの手を引き、渋々頷くと、
この方は急に 真面目な顔に戻り、潤む瞳をひたと俺に当てた。
酒か、もしくは額を打った痛みのせいか。
どちらかなのだと分かっていても、
潤んだその目に、おかしな胸騒ぎがする。
「…何ですか」
何故急に泣く。質の悪い酔い方だ。
俺が目を逸らし問うと、この方はその細い指で
俺の上着の袖口を、きゅっと握りしめた。
「私はいっつもいっつも、今みたいにそうやって心配してる。
あなたはいっつもいっつも、私に隠して、影で無茶ばっかり。
全部隠してなんにも言わないで、傷だらけになってる。
だからパートナーだって言ってるでしょ。
これからは言ってよ、何してるのか、
何思ってるか、ちゃんと教えてよね」
その潤んだ眼は、酒のせいか痛みのせいだ。
その目の淵に浮かんだ滴は、そのせいに違いない。
そう思いたかった、俺のせいではないと。
それでも、目の前でこうして口にされてしまえば。
「…はい」
返答にようやく満足して下さった
か、うんうん頷き、
この方は紅い髪を、鬱陶しげにかき上げる。
「もう、帰りましょう」
「もう一杯だけ、最後に」
ここまで来てまだ言うか。
思わず漏れる息を、隠す気にもなれん。
「では一杯だけ、最後に」
髪をかき上げながら、静かになったこの方に伝える。
するとこの方は、こちらを見上げて、真っ直ぐ言った。
「帰り、おんぶして」
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